準決勝の勝利で全国出場を決めている同士の大一番は、掛け値なしのハイレベルな好勝負となった。既定の6回を終えて、それぞれ7安打の3得点。特別延長戦で、船橋フェニックス(世田谷)がレッドサンズ(文京)に打ち勝ち、2年ぶり2回目の優勝を遂げた。47都道府県で最多の941チームが加盟する東京都の全国予選はこれで終了、第46回全日本学童マクドナルド・トーナメントは8月7日に愛媛県で開幕する。2年ぶり3回目の出場となる船橋と、3年ぶり5回目のレッドとの、リマッチがあるとすると8月16日の決勝となる。
(写真&文=大久保克哉)
※記録は編集部、本塁打はすべてランニング。全国出場する2チームの紹介記事は後日、それぞれ公開します
■決勝
6月13日◇府中市民球場

船橋フェニックス(世田谷)
1002005=8
1010100=3
レッドサンズ(文京)
※特別延長7回
【船】森下、大野、森下、大野-石黒
【レ】神谷、武内、大塚-原川
本塁打/森下、佐々木(船)
三塁打/原川(レ)、若月(船)
二塁打/大野2(船)、原川2(レ)、岡本、森下(船)
【評】先攻の船橋が、森下貴斗の先頭打者本塁打で先制すれば、レッドは原川瑛仁主将の三塁打と武内瑛汰の犠飛ですぐさま1対1に。3回裏、レッドが原川主将の適時二塁打で2対1と勝ち越せば、船橋は4回表に佐々木翔瑛が逆転2ラン。5回裏、レッドは原川主将の3本目となる長打で一死二、三塁とし、敵失で3対3に追いつくも、守る船橋はエンドランを外しての三振併殺で勝ち越しを許さない。そして勝負は無死一、二塁で始まる特別延長戦へ。7回表、九番・若月柊哉から二番・大野凌駕までの3連続長短打に、五番・岡本悠人の左前適時打で5得点した船橋が、レッドの反撃を断って2年ぶりに東京王者となった。
―SPECIAL REPORT―
6回までのシーソーゲームに「驚き」と「感心」が交錯
ボカ~ン!だったか、ドスン!だったか。突飛なその“生音”はよく響いたが、筆者も初耳で音色をよく覚えていない。いや、あまりの興奮で記憶中枢が一時的にフリーズしたのかもしれない。
ともあれ、激レアな衝撃音から、東京の頂上決戦は本格的に始まった。学童用の軟式J号球が、両翼95mの球場フェンスにダイレクトで直撃。開始から3球目のことだった。


打ったのは、船橋フェニックスの一番・森下貴斗(=㊤写真)。左打席でジャストミートした打球はライト方向へ舞い上がり、フェンスにぶち当たってから人工芝の上を転々。
「(フェンスを)越えてほしかったです」と振り返ったトップバッターだが、駆ける足のまた速いこと。50m走6秒7のスピードで、あっという間にダイヤモンドを一周しての先頭打者ホームランとなった。
その1球を投じたのは、レッドサンズのエース・神谷駿(=㊦写真)。よく整っている投球フォームは、昨秋の新人戦でも際立った本格派の右腕だ。ちなみに、この世代の両軍が公式戦で対するのは新人戦の都準決勝以来2回目で、前回は4対2でレッドが勝利(準優勝)。だが、3月のナガセケンコー杯の準々決勝では、船橋が5対0でリベンジしている。


開始2人目の打者までは、何らかのエラーで球速の表示がされなかったが、神谷の速球はほぼ100㎞前後。球威のあるフォーシームだからこそ、3球目の“激レアな衝突音”も生まれたのだろう。
「(守る)みんなを信じて、自分が出し切れるボールをしっかり投げられたと思うので、やってしまった!というのはなかったです」
こう振り返った神谷は、先頭打者本塁打を許した後、イニングまたぎで船橋の四番打者から4者連続三振を奪うなど、さすがはエースのピッチング。センター後方の球速表示を振り返りもせず、4回にマークした自己最速「102㎞」(=㊤写真)も、試合後に人から言われて知ったほど、勝負に集中していた。


こうして船橋は「驚き」を、レッドは「感心」を、その後も喚起させていくことになる。全国出場を決めている同士のガチンコ勝負は、目の離せないシーソーゲームに。
そして既定の6イニングを終えて3対3、ヒット数も双方7本で並んでいた。船橋は守りのミスが、レッドは攻撃の失敗が響いたシーンもあったが、それすらも好勝負を引き立てるスパイスに感じられた。

驚愕の120㎞、怯まぬ打線
船橋の2つ目の「驚き」は、先頭打者弾を放った森下(=㊦写真)が、先発のマウンドから投じた1球目だ。いきなり117㎞のストライク。こちらの右腕は自己最速を119㎞まで更新することになるが、「感心」したのは少しも怯まぬレッド打線だった。


1回裏、二番・原川瑛仁主将は118㎞を左中間へ弾き返して三塁まで進むと、続く武内瑛汰が117㎞を逆方向へ打ち上げての犠飛で、あっさりと1対1に。
結果として、この試合の最後の打者となった原川主将は「(守備の)中継ミスとか、走塁ミスとかが…」と真っ先に反省が口をついたが、船橋の猛者たちに劣らぬ打力を披露。3回の第2打席は二死一、二塁から、左翼線へ勝ち越しの適時二塁打を放った(=㊦写真)。


またその直前に、船橋は大型左腕の大野凌駕(=㊤写真)へとスイッチ。左打席の原川主将は120㎞、121㎞(※大野のMAX)と「驚き」の剛速球で追い込まれた後、29㎞も遅くなった3球目をピリャリと打ち返してみせたのだった。
そして船橋のスーパー左腕と、レッドのキャプテンとの再対決があった5回裏が、この一戦の最大のヤマ場となった。

レッドは五番・山本駿翔㊤が2安打、途中出場の加藤は7回裏に右前打㊦


1点勝ち越された船橋は直後の4回表、岡本の右翼線二塁打㊤と佐々木の右越え本塁打で3対2と逆転

長く濃厚なイニング
船橋は4回表、二死無走者から五番・岡本悠人が二塁打を放つと、続く佐々木翔瑛が逆転2ラン。そのまま1点リードで迎えた5回裏に、長くて濃ゆい攻防があった。

レッドは先頭の代打・加藤光志朗が死球で一塁へ。続く一番・神谷はバントヒット(=㊤写真)で無死一、二塁に。しかし、三番・原川主将は送りバントを空振りし、飛び出していた二走が捕手に刺されてしまう(=㊦写真)。

そして一死一塁でカウント1-1になったところで、船橋ベンチが再び動く。4回から再登板していた右腕・森下に代わり、スーパー左腕の大野をまたマウンドへ(=㊦写真)。打席のレッドのキャプテンとの対決を1球ずつ辿ると、以下になる。


117㎞ファウル、116㎞ファウル、119㎞ボール、121㎞ボールでフルカウントに(=㊤写真)。さらに左翼線へのファウルが2球続いた後の117㎞を、原川主将は左中間へ打ち返した(=㊦写真)。これが二塁打となって一死二、三塁に。
左対左の一騎打ち第2ラウンドも、レッドのキャプテンの手が挙がった。すると攻めるベンチは、迷わず勝負に出た。

三番・武内は1ボールから2球目をスクイズ。これがファウルになると、続く3球目はエンドランだ。守るベンチはそれを読んでおり、バッテリーはローウエストで空振りを奪った。スタートを切っていた三走は塁間に出ている。
しめた! ついさっきは強肩で一死を奪っていた船橋の捕手、石黒主将はそう思ったに違いない。ボールを保持して三走を軽く追ってから三塁へ送球。だが、それが大きく横に逸れてしまい、三走の神谷が同点のホームを踏んだ。

3対3となってなお、一死三塁。大ピンチが続く船橋だが、ここで真価を発揮したのがスーパー左腕の大野だ。6日前の準決勝は球がややバラついたが、この日はストライク先行の投球だった。
「まぁ、打たれても大丈夫。周りの守備が絶対に助けてくれると思っていました」(大野)
1ボール2ストライクからの4球目、レッドは再びエンドランを敢行。対する大野は要求通りのローウエストで再び空振りを誘って三振を奪う(=㊤写真)。さらに、キャッチした石黒主将は今度は三走を深く追い込んでからの三塁送球でタッチアウトに。

三振併殺で終わった5回裏の攻防を、両監督はそれぞれこう振り返っている。
「もらった1点で同点になったんですけど、勝ち越す1点が仕掛けて取れなかったのが…。マシンで速いボールは打ち込んでるんですけど、今日のピッチャー(大野)は角度も違うし…。ああいうピッチャーからも打って点を取る技術をつけるというのも、全国に向けての課題になると思います」(レッド・門田憲治監督=㊦写真))


「(ウエストは)2球とも、こっち(監督)の指示です。1球目も外してからの挟殺プレーで、もう少し走者を追えばいいのに投げてしまった。そういうのは練習じゃなかなか難しいんですけど、今日の反省で活かしてくれると思うし、2球目はそれもできてましたからね」(船橋・岡本隼人監督=㊤写真)
走者三塁から1点を巡る攻防は、ハイレベルな全国大会ではより多くなる。船橋の左右2枚看の剛速球によるローウエストは守りの重要なアイテムとなるはずで、それを経験したレッド打線の引き出しはなお、増えることだろう。
ヒーロー&グッドルーザー
では最後に、ヒーローとグッドルーザーを紹介して特別レポートの締めとしよう。
ヒーローは延長7回表に、決勝の2点タイムリー三塁打(=㊦写真)を放った、船橋の九番・若月柊哉だ。

この回の船橋は走塁死で1アウトを奪われた後に、八番の髙橋冴優が四球を選んでの二盗で一死二、三塁に。「バントとかでつなぐ指示が出ていたんですけど、盗塁で1球待って、次も見送って追い込まれたので、打つしかないと」
そう振り返った若月は、前の2打席は空振り三振だったが、この好機ではレフトの頭上へ打ち返してみせた。また6日前の準決勝では、最終回にバントヒット(=㊦写真)を決めて次打者、森下の決勝3ランを呼び込んでいる。

「ノーアウト一、二塁からの下位打線は、ウチの得意なパターンなので、みんな点が入る気しかしてなかったと思います」と岡本監督。器用で勝負強い打者が九番目にいることも強さの一因に違いないが、若月は気取らずにこう語った。
「打順とかはぜんぜん気にしてないです。全国大会も今日と同じように大事な場面でたくさん打てる選手になりたいです」

グッドルーザーは、レッドの武内だ。準決勝の勝利で全国出場を決めたときには、一人だけ顔をくしゃくしゃにして泣いていたのも印象的だった(=㊤写真)。
「もうあり得ないというか、想像してた以上というか、すっげ~うれし過ぎて…」
投打に光るタレントだが、人知れず積もるものもあったのだろう。決勝ではモンスター級の相手投手陣に話題をさらわれたが、二番手で登板して最速105㎞をマーク。特別延長で3連打を浴びて降板後には、遊撃に入っての前身守備で強烈なゴロを捕り、本塁送球でアウトを奪ったスーパープレーも。

「全国大会は相手も強いだろうから緊張感があります。チームが勝てるように得点に絡んで、守備で支えてくてるみんなに感謝して投げながら、みんなで優勝したいです」
これ以上はないだろうという役者たちがそろってのハイパフォーマンスに加え、見応えのある駆け引きと応酬の数々。東京ではなく全国大会の決勝であったとしても、何らそん色のないレベル、珠玉の好勝負だった。
